ある日突然、見知らぬ弁護士から「慰謝料○○万円を請求します」という内容証明郵便が届く——不倫の慰謝料請求は、多くの場合このような形で始まります。

パニックになるのは当然ですが、請求された金額をそのまま支払う必要はありません。 慰謝料の金額は交渉によって減額できるケースが多く、そもそも請求自体が認められない場合もあります。

この記事でわかること: 慰謝料を請求されたときの正しい対応手順、減額が認められるケース、絶対にやってはいけないNG行動、そして弁護士に相談すべきタイミングを解説します。

慰謝料を請求されたらまずやるべきこと

内容証明郵便や弁護士からの通知書を受け取ったら、まず以下の3つを確認してください。

① 書面の内容を正確に把握する

請求書面には通常、以下の情報が記載されています。

請求者の情報:誰が請求しているのか(不倫相手の配偶者本人か、代理人弁護士か)を確認します。弁護士名義の場合は、その弁護士が実在するか弁護士会の検索システムで確認できます。

請求金額:金額が記載されています。一般的に、内容証明での請求額は相場より高めに設定されていることが多いです。不倫慰謝料の裁判相場は50〜300万円ですが、内容証明では500万円以上を請求してくるケースもあります。慰謝料相場の詳細は浮気の慰謝料相場はいくら?で確認できます。

回答期限:「○日以内に回答がなければ法的手続きに移行する」と記載されているのが一般的です。通常2週間〜1ヶ月程度の猶予が設けられています。

請求の根拠:いつ、誰との、どのような行為に基づく請求なのかを確認します。事実と異なる点がないかチェックしてください。

② 絶対にやってはいけないNG行動

請求を受けた直後のパニック状態で、以下の行動を取ると状況が悪化します。

書面を無視する:内容証明を無視しても問題が消えることはありません。無視し続けると、相手は訴訟を提起する可能性が高まります。裁判になると訴状が届き、答弁書を出さなければ相手の主張がそのまま認められる「欠席判決」が下されるリスクがあります。

相手に直接連絡する:請求者の配偶者(つまり不倫相手)に連絡を取って口裏合わせをしたり、請求者本人に直接電話をかけたりする行為は、交渉を不利にするだけでなく、脅迫や強要と受け取られるリスクがあります。

すぐに全額を支払う:パニック状態で「早く終わらせたい」と全額を支払ってしまうケースがありますが、後から減額交渉はできません。支払い前に必ず専門家に相談してください。

SNSに投稿する:不安や怒りからSNSに状況を書き込むと、名誉毀損やプライバシー侵害の問題が生じます。また、投稿内容が証拠として使われる可能性もあります。

③ 早めに弁護士に相談する

慰謝料請求への対応は、できるだけ早い段階で弁護士に相談するのが最善です。理由は3つあります。

第一に、請求金額が相場と乖離していないかを客観的に判断してもらえます。第二に、回答書面の作成や交渉を代理してもらうことで、感情的なやり取りを避けられます。第三に、減額交渉の見通しを立てた上で対応方針を決められます。

弁護士費用の目安は、相談料が無料〜1万円、着手金が10〜20万円、成功報酬が減額分の10〜20%程度です。300万円の請求を100万円に減額できた場合、弁護士費用を差し引いても大きなメリットがあります。

慰謝料を減額できるケース

請求された慰謝料が必ずしも妥当な金額とは限りません。以下のケースでは、減額交渉が認められる可能性があります。

ケース①:相場を大幅に超える請求

不倫慰謝料の裁判相場は、離婚に至る場合で150〜300万円、離婚しない場合で50〜100万円が一般的です。500万円や1,000万円といった請求は、感情的な金額設定である可能性が高く、交渉で大幅に減額されるケースが多いです。

ケース②:不貞行為の期間が短い

一度きり、あるいは短期間(数週間〜1、2ヶ月程度)の関係であれば、長期間の不倫と比較して精神的苦痛が相対的に小さいと判断され、減額の方向に働きます。

ケース③:不倫前から婚姻関係が悪化していた

不倫が始まる前から夫婦関係がすでに悪化していた場合(長期間のセックスレス、家庭内別居状態、離婚の話し合いが進んでいたなど)、不倫が婚姻関係に与えた影響は限定的と判断されます。ただし、「婚姻関係の破綻」が完全に認められるハードルは高いため、弁護士と相談した上で主張すべきです。別居中の浮気における「破綻」の判断基準は別居中の浮気でも慰謝料は請求できる?で解説しています。

ケース④:既婚者であることを知らなかった

不倫相手が「独身だ」と偽っていた場合、あなたに故意・過失がなければ慰謝料を支払う義務はありません。ただし、「知らなかった」と主張するだけでは不十分で、「知らなかったことに過失がない」ことを客観的に説明できる必要があります。

マッチングアプリで出会い、相手が独身と偽っていたケースでは、アプリのプロフィール画面やメッセージのやり取りが証拠になります。SNS・マッチングアプリでの浮気の法的な扱いはSNS・マッチングアプリでの浮気|証拠の集め方と法的注意点で詳しく解説しています。

ケース⑤:十分に反省し関係を断っている

不倫関係を即座に断ち、誠意をもって謝罪している場合は、裁判でも減額事由として考慮されます。逆に、請求を受けた後も不倫関係を続けている場合は増額の方向に働きます。

ケース⑥:すでに社会的制裁を受けている

不倫が職場に知られて退職に追い込まれた、配偶者から暴力を受けたなど、すでに社会的な制裁を受けている場合は、慰謝料が減額される可能性があります。

ケース⑦:自分の経済状況が厳しい

年収や資産が少ない場合、裁判では支払い能力が考慮されることがあります。ただし、これだけで大幅な減額が認められるわけではなく、あくまで補助的な事情として扱われます。

慰謝料を請求されたら、まず専門家に相談を。

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慰謝料を支払わなくてよいケース

減額ではなく、そもそも慰謝料の支払い義務が発生しないケースもあります。

不貞行為(肉体関係)がない場合

法律上の不貞行為とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことです。食事やLINEのやり取りだけでは、原則として不貞行為には該当しません。ただし、肉体関係がなくても「婚姻共同生活の平和を侵害する行為」と認定されれば、少額の慰謝料が認められる場合があります。不貞行為の定義についてはどこからが浮気?法的ラインと心理的ボーダーを徹底解説で詳しく解説しています。

不倫開始時に婚姻関係が破綻していた場合

不倫が始まった時点で、すでに婚姻関係が完全に破綻していた場合は、慰謝料を支払う義務はありません。最高裁平成8年3月26日判決がこの原則を明確にしています。ただし、「破綻していた」と認定されるハードルは非常に高く、単に「夫婦仲が悪かった」程度では認められません。

時効が成立している場合

不貞行為と加害者を知った日から3年が経過している場合、消滅時効が成立しており支払い義務はありません。また、不貞行為から20年が経過した場合も同様です。時効の詳しいルールは慰謝料請求の時効と期限切れを防ぐ方法で解説しています。

既婚者だと知らず、知り得なかった場合

前述のとおり、相手が独身と偽っており、既婚者であることを知り得なかった場合は、故意・過失がないため慰謝料の支払い義務はありません。

すでに配偶者から十分な慰謝料を受けている場合

不倫の慰謝料は、配偶者と不倫相手の「共同不法行為」に基づく連帯債務です。請求者がすでに配偶者から慰謝料相当額を受け取っている場合、損害はすでに補填されているため、あなたへの請求は認められません。

減額交渉の具体的な進め方

ステップ1:事実関係を整理する

まず、不倫の事実関係を正確に整理します。いつからいつまで関係があったのか、頻度はどの程度か、どのような経緯で始まったのか、既婚者であることをいつ知ったのか——これらを時系列で整理し、弁護士に正確に伝えることが重要です。

弁護士に対しては嘘をつかないでください。 不利な事実を隠すと、後から発覚した場合に弁護士との信頼関係が崩れ、適切な対応ができなくなります。弁護士には守秘義務があり、相談内容が外部に漏れることはありません。

ステップ2:回答書面を作成する

弁護士に依頼して、請求に対する回答書面を作成します。回答書面には、事実関係の認否(認める部分と否認する部分)、減額を求める根拠、和解の意向の有無を記載します。

回答期限が迫っている場合は、まず「弁護士に依頼したため、回答までに○週間の猶予をいただきたい」という延期の連絡をします。合理的な延期要請を拒否して即座に訴訟を起こすことは通常ありません。

ステップ3:減額交渉を行う

弁護士を通じて、相手方(または相手方弁護士)と交渉を行います。減額交渉で最も重要なのは、感情的にならず、法的根拠に基づいて主張することです。

交渉で活用できる減額根拠は、不倫期間の短さ、婚姻関係の悪化、配偶者側の主導性(配偶者から誘われた等)、社会的制裁の存在、経済状況などです。これらを複合的に主張することで、請求額の30〜60%程度まで減額に成功するケースが多いです。

ステップ4:示談書を作成する

金額で合意に達したら、示談書(和解書)を作成します。示談書には、以下の条項を盛り込むことが重要です。

清算条項:この示談をもって、当事者間の一切の債権債務関係が存在しないことを確認する条項です。これがないと、後から追加の請求を受けるリスクがあります。

守秘義務条項:不倫の事実と示談の内容を第三者に口外しない旨の条項です。あなたの社会的評価を守るために重要です。

接触禁止条項:不倫相手との接触を禁止する条項です。再び接触があった場合の違約金が設定されることもあります。

求償権の処理:あなたが不倫相手の立場で慰謝料を支払う場合、配偶者に対する求償権(自分の責任割合を超えた分を返してもらう権利)の行使について明記しておく必要があります。求償権の詳細は不倫相手だけに慰謝料請求する方法で解説しています。

減額交渉は専門家と一緒に進めましょう。

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裁判になった場合の流れと費用

示談がまとまらない場合、相手方が訴訟を提起する可能性があります。

訴訟の流れ

① 訴状の送達:裁判所から訴状が届きます。受け取りを拒否しても、付郵便送達や公示送達により裁判は進行します。

② 答弁書の提出:訴状に対する反論を「答弁書」として提出します。これを提出しないと、相手の主張がそのまま認められるリスクがあります。

③ 口頭弁論・弁論準備:裁判所で双方が主張と証拠を提出し合います。不貞慰謝料の裁判は通常3〜5回の期日で進行し、6ヶ月〜1年程度かかります。

④ 和解勧告:裁判所は多くの場合、判決の前に和解を勧めます。不貞慰謝料の訴訟では、約7割が和解で決着します。和解金額は判決で想定される金額に近いことが多く、双方が歩み寄る形になります。

⑤ 判決:和解が成立しない場合は判決が下されます。

裁判にかかる費用

被告側(請求された側)の裁判費用の目安は以下のとおりです。

弁護士の着手金は20〜30万円、成功報酬は減額分の10〜20%が一般的です。裁判所に納める印紙代は被告側には不要です(原告が負担)。日当や交通費、書類作成費用を含めると、トータルで30〜50万円程度が目安になります。

裁判では弁護士費用を相手に請求することはできません(「弁護士費用の敗訴者負担制度」は日本にはありません)。ただし、判決で認められた慰謝料額の約10%が「弁護士費用相当損害金」として加算されることがあります。

配偶者にバレずに解決できるか

「不倫がバレていない。請求者にだけ知られている状態で、配偶者に知られずに解決したい」というケースは少なくありません。

バレずに解決できる可能性はある

弁護士を代理人に立てれば、すべてのやり取りを弁護士の事務所宛てに行うことができます。書面のやり取り、電話連絡、示談書の取り交わしをすべて弁護士経由にすることで、自宅に書類が届くリスクを最小限にできます。

ただし、以下の場合はバレるリスクが高まります。

相手が訴訟を起こした場合、裁判所からの書類は住所地に届きます。弁護士が受領する手配をしていても、送達のタイミングによっては家族の目に触れる可能性があります。

また、相手が感情的になって配偶者に直接連絡するリスクもあります。示談交渉を弁護士を通じて迅速に進め、早期解決を目指すことが、バレるリスクを下げる最善策です。

「求償権」を活用して実質負担を減らす

あなたが不倫相手の立場で慰謝料を支払った場合、不倫の共同不法行為者である配偶者(交際していた相手)に対して求償権を行使できます。

求償権の仕組み

たとえば、あなたが請求者に150万円の慰謝料を支払った場合、交際していた相手(請求者の配偶者)の責任割合が60%であれば、90万円を求償(返還請求)する権利があります。

ただし、求償権の行使は実務上のハードルがあります。交際相手が任意に支払いに応じないケースもあり、別途訴訟を起こす必要が生じることもあります。また、示談書で求償権の放棄を求められるケースが多いため、示談段階で求償権をどう扱うかは弁護士と慎重に検討してください。

求償権放棄を求められた場合の対応

相手方から「求償権を放棄すること」を示談の条件として求められることがあります。この場合、求償権を放棄する代わりに慰謝料額の減額を交渉するのが一般的な実務対応です。

たとえば、本来150万円の慰謝料に対して、求償権放棄を条件に80〜100万円で合意するといった形です。あなたにとっては実質負担額がほぼ変わらず、相手方にとっては配偶者への求償を防げるため、双方にメリットのある解決方法です。

よくある質問(FAQ)

Q. 内容証明が届いたら必ず慰謝料を払わなければいけませんか?

いいえ。内容証明郵便は「請求の意思表示」であり、法的な強制力はありません。内容証明を受け取ったからといって、記載された金額を支払う義務は発生しません。ただし、無視し続けると訴訟に発展するリスクがあるため、弁護士に相談した上で適切に回答することが重要です。

Q. 相手の請求金額が500万円ですが、そのまま払う必要がありますか?

裁判で認められる不倫慰謝料の相場は、離婚に至る場合でも150〜300万円が一般的です。500万円は相場を大幅に超えており、交渉や裁判で減額される可能性が高いです。相手が感情的に高額を請求しているケースも多いため、弁護士に相談して適正な金額を見極めてください。

Q. 弁護士費用を払えるか不安です。分割払いはできますか?

多くの弁護士事務所で分割払いに対応しています。また、収入が一定以下の場合は法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を利用して、弁護士費用の立替制度を使うこともできます。初回相談無料の事務所も多いので、まずは費用の見積もりだけでも相談してみてください。

Q. 不倫相手(交際していた相手の配偶者)から直接会って話したいと言われました。応じるべきですか?

直接の面会は避けることをおすすめします。感情的な対立に発展するリスクが高く、発言が不利な証拠として使われる可能性もあります。「弁護士を通じてお話しさせてください」と伝え、すべてのやり取りを弁護士経由にするのが安全です。

Q. 会社にバラすと脅されています。これは違法ですか?

不倫の事実を職場や家族に暴露すると脅すことは、刑法上の脅迫罪に該当する可能性があります。また、実際に暴露した場合は名誉毀損やプライバシー侵害として損害賠償の対象になります。このような脅迫を受けた場合は、メールやLINEのスクリーンショットなどで証拠を保全し、弁護士に相談してください。不倫が実際に会社に知られた場合の処分リスクと対処法は不倫が会社にバレたらどうなる?懲戒処分・解雇のリスクと対処法で解説しています。

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