「話し合いでは離婚条件がまとまらない」「相手が浮気を認めない」「慰謝料の金額で折り合いがつかない」——浮気が原因の離婚では、当事者間の協議だけでは解決しないケースが少なくありません。
司法統計によると、離婚調停の申立件数は年間約5万件にのぼります。このうち不貞行為を動機に含む申立ては妻側で16.5%、夫側で12.2%を占めています。離婚調停は裁判より費用・精神的負担が小さく、浮気が原因の離婚で最も多く利用される法的手続きです。
この記事でわかること: 離婚調停の申立て方法、手続きの流れ、必要な費用と期間、浮気の証拠をどう活用するか、慰謝料・親権・財産分与の交渉ポイント、そして調停が不成立になった場合の対処法を解説します。
離婚調停とは——協議離婚・裁判との違い
離婚の3つのステップ
日本の離婚手続きは、原則として以下の順序で進みます。
① 協議離婚:夫婦の話し合いで離婚条件に合意し、離婚届を提出する方法です。離婚全体の約87%がこの方法で成立しています。
② 調停離婚:家庭裁判所の調停委員を介して話し合う方法です。離婚全体の約9%を占めます。日本では「調停前置主義」が採用されており、いきなり裁判を起こすことはできず、まず調停を経る必要があります。
③ 裁判離婚:調停が不成立の場合に、裁判で離婚を求める方法です。離婚全体の約1〜2%にとどまります。
離婚調停のメリット
費用が安い:申立て費用は収入印紙1,200円+郵便切手代(約1,000円)のみです。弁護士を付ける場合でも、裁判と比べて費用は大幅に抑えられます。
非公開で行われる:裁判は原則公開ですが、調停は非公開です。浮気の詳細や家庭の事情が第三者に知られる心配がありません。
柔軟な解決が可能:裁判では法律の枠組みに沿った判断しかできませんが、調停では当事者の事情に応じた柔軟な取り決めが可能です。
相手と直接顔を合わせない:調停では申立人と相手方が別々の待合室で待機し、交互に調停室に入るため、基本的に当事者同士が顔を合わせることはありません。
離婚調停の申立て方法
申立てに必要な書類
| 書類 | 入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 離婚調停申立書 | 裁判所窓口またはウェブサイト | 裁判所サイトからダウンロード可能 |
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 本籍地の市区町村役場 | 発行から3ヶ月以内のもの |
| 収入印紙 1,200円分 | 郵便局・コンビニ | 申立手数料 |
| 連絡用の郵便切手 | 郵便局 | 裁判所により金額が異なる(約1,000円) |
| 年金分割のための情報通知書 | 年金事務所 | 年金分割を求める場合のみ |
申立先
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。自分の住所地ではない点に注意してください。ただし、双方が合意すれば別の家庭裁判所で行うことも可能です。
申立書の書き方のポイント
申立書には「申立ての動機」を記載する欄があります。浮気が原因の場合は「異性関係」にチェックを入れます。複数の動機がある場合はすべてにチェックできます。
「申立ての理由」欄には、浮気の事実を簡潔に記載します。詳細な証拠の説明は調停の場で行うため、申立書では「配偶者が不貞行為を行った」「○年○月頃から特定の異性と不貞関係にある」程度の記載で十分です。
離婚調停の流れ——申立てから成立まで
全体のタイムライン
申立てから調停成立(または不成立)までの標準的な期間は3〜6ヶ月です。司法統計では、審理期間6ヶ月以内で終結するケースが約6割を占めています。
ステップ別の流れ
ステップ1:申立て(0日目) 必要書類を揃えて家庭裁判所に提出します。窓口でも郵送でも申し立てられます。
ステップ2:期日の通知(2〜4週間後) 裁判所から双方に第1回調停期日の通知が届きます。通常、申立てから1ヶ月〜1ヶ月半後に第1回期日が設定されます。
ステップ3:第1回調停期日 調停委員(男女各1名)と裁判官で構成される調停委員会が、申立人と相手方から交互に事情を聴取します。1回の期日は約2〜3時間です。
第1回では主に以下が確認されます。
- 離婚の意思の有無
- 浮気の事実関係
- 慰謝料・財産分与・養育費・親権に関する双方の希望
- 子どもの状況
ステップ4:第2回以降の調停期日(月1回ペース) 争点を絞り込みながら合意形成を目指します。調停は月1回のペースで行われ、平均3〜5回の期日で結論が出ます。
ステップ5:調停成立 or 不成立 双方が合意に達すれば「調停成立」となり、合意内容が調停調書に記載されます。調停調書は確定判決と同じ効力を持つため、相手が約束を守らない場合は強制執行が可能です。
合意に達しない場合は「調停不成立」となり、離婚を求める場合は裁判に移行します。
浮気の証拠が調停を左右する
離婚調停は「話し合い」の場ですが、浮気の証拠があるかどうかで交渉力が大きく変わります。
証拠がある場合のメリット
相手が浮気を否定できなくなる:調停の場で「浮気はしていない」と主張しても、決定的な証拠があれば調停委員の心証は大きくこちら側に傾きます。
慰謝料の増額交渉ができる:証拠の質が高いほど「このまま裁判になれば不利」と相手に認識させ、調停の段階で高額な慰謝料に合意させやすくなります。
親権・財産分与でも有利に:浮気の証拠は直接的に親権を左右するわけではありませんが、「配偶者としての信頼を裏切った」事実が総合的な判断に影響します。
調停で有効な証拠
| 証拠の種類 | 証拠力 | 備考 |
|---|---|---|
| 探偵の調査報告書 | ★★★ | ラブホテル・不倫相手宅への出入りの写真・動画 |
| ホテルの領収書・クレジットカード明細 | ★★★ | 日時・場所が特定できるもの |
| LINEやメールのスクリーンショット | ★★☆ | 性的な関係を示唆する内容があればなお強い |
| 目撃証言 | ★☆☆ | 第三者の客観的な証言 |
証拠の詳細な分類は浮気の証拠になるもの・ならないもの完全一覧で確認できます。探偵の調査報告書の読み方と活用法は探偵の調査報告書の見方と活用法を参照してください。
証拠がない場合の対処法
証拠が不十分でも調停を申し立てること自体は可能です。ただし、相手が浮気を否認した場合、「言った・言わない」の水掛け論になり、調停委員も踏み込んだ仲介がしにくくなります。
調停を申し立てる前に、できる限り証拠を確保しておくことが重要です。自力での証拠収集には限界とリスクがあるため、探偵への依頼を検討してください。探偵の選び方は探偵事務所の選び方|後悔しない5つのチェックポイントで、信頼できる探偵社の比較はおすすめ探偵社ランキングで確認できます。
調停で決めるべき4つの条件
浮気が原因の離婚調停では、以下の4点が主要な交渉テーマになります。
① 慰謝料
浮気(不貞行為)が原因の離婚における慰謝料の相場は150〜300万円です。金額は以下の要素で変動します。
- 婚姻期間の長さ(長いほど増額)
- 子どもの有無と年齢(未成年の子がいると増額)
- 浮気の期間と回数(長期間・複数回は増額)
- 浮気した側の反省の有無(反省なし・継続は増額)
- 浮気された側の精神的苦痛の程度
- モラハラ(精神的DV)の併発がある場合は増額傾向
浮気に加えてモラハラがある場合は慰謝料の増額要因になります。モラハラと浮気が同時に起きているケースの対処法はモラハラと浮気の関係|加害者の心理と正しい対処法で解説しています。調停では、裁判の相場を参考にしつつも当事者間の合意で金額を決めるため、裁判より高い金額で合意できるケースもあります。慰謝料の詳しい相場は浮気の慰謝料相場はいくら?で解説しています。
② 財産分与
婚姻期間中に形成した財産は、原則として2分の1ずつに分与されます。浮気した側であっても、財産分与の割合は原則2分の1です(慰謝料とは別の性質のため)。
対象となる財産には、預貯金・不動産・車・保険の解約返戻金・株式・退職金(将来の分を含む)などがあります。不動産や退職金の具体的な計算方法、隠し財産への対処法は浮気が原因の離婚と財産分与|損しないための基礎知識で詳しく解説しています。
③ 親権・養育費
未成年の子どもがいる場合、親権者の決定は離婚の必須条件です。調停では、子どもの年齢・生活環境・経済力・子ども自身の意思などを総合的に考慮して決定されます。
浮気の事実は親権判断の決定的な要素にはなりませんが、「子どもの福祉を損なう行為」として間接的に影響する可能性があります。親権の判断基準の詳細は浮気が原因の離婚で親権はどうなる?で解説しています。
養育費は裁判所の算定表に基づき、双方の収入と子どもの人数・年齢から算出されます。離婚後の生活費の目安や公的支援制度の一覧は浮気が原因の離婚後の生活設計|お金・住居・仕事の準備で確認できます。
④ 年金分割
婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する制度です。「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、離婚調停で合わせて取り決めるのが一般的です。年金分割の請求には離婚から2年以内という期限があるため注意が必要です。
調停を有利に進める5つのポイント
① 弁護士を付ける
離婚調停は弁護士なしでも行えますが、浮気が原因のケースでは弁護士を付けることを強くおすすめします。理由は以下のとおりです。
- 慰謝料の適正額を把握した上で交渉できる
- 法的に有効な主張の組み立てができる
- 感情的になりがちな場面で冷静な判断ができる
- 調停委員に対して説得力のある説明ができる
弁護士費用の目安は、着手金20〜30万円+成功報酬(慰謝料の10〜20%)が一般的です。
② 証拠は「出すタイミング」が重要
手持ちの証拠をすべて最初から開示する必要はありません。相手が「浮気はしていない」と否認した段階で決定的な証拠を提示する方が、相手の嘘が明らかになり調停委員の心証に大きく影響します。証拠の出し方は弁護士と相談して戦略的に決めましょう。
③ 調停委員への印象を大切にする
調停委員は中立の立場ですが、当事者の態度や話し方によって心証は変わります。感情的に相手を非難するのではなく、事実を冷静に説明する姿勢が重要です。
- 時系列に沿って簡潔に事実を説明する
- 証拠に基づいた主張をする
- 相手の人格攻撃は避け、行為の問題点に焦点を当てる
- 調停委員の質問には誠実に答える
④ 希望条件に優先順位をつける
慰謝料・親権・財産分与・養育費——すべてを最大限に獲得しようとすると交渉が膠着します。事前に「絶対に譲れない条件」と「譲歩できる条件」を明確にしておくことで、調停がスムーズに進みます。
⑤ 調停調書の内容を慎重に確認する
調停が成立すると作成される調停調書は、確定判決と同じ法的効力を持ちます。一度成立すると原則として変更できないため、記載内容は弁護士と一緒に細部まで確認してください。特に以下の点に注意が必要です。
- 慰謝料の支払い方法(一括か分割か)と期限
- 養育費の金額・支払い期間・増減額の条件
- 面会交流の頻度と方法
- 財産分与の具体的な内容と期限
調停が不成立になった場合
調停で合意に至らなかった場合の選択肢は2つです。
審判離婚
調停が不成立でも、裁判官が「相当と認める」場合に審判で離婚を成立させることがあります。ただし、当事者から2週間以内に異議申立てがあれば審判は無効になるため、実際に審判離婚が成立するケースは少数です。
離婚裁判
調停不成立後、離婚を求める場合は家庭裁判所に離婚訴訟を提起します。裁判では、浮気(不貞行為)は民法770条1項1号の法定離婚事由に該当するため、証拠があれば離婚が認められます。
裁判の期間は平均1年〜1年半、弁護士費用は着手金30〜50万円+成功報酬が目安です。調停よりも費用・時間・精神的負担が大きいため、可能な限り調停の段階で合意を目指すことが望ましいです。
よくある質問
Q1. 浮気した側からも離婚調停を申し立てられますか?
申し立てることは可能です。ただし、浮気した側は「有責配偶者」にあたるため、相手が離婚に同意しない場合、裁判に移行しても離婚が認められにくいのが原則です。有責配偶者からの離婚請求が認められるには、長期間の別居(概ね7〜8年以上)、未成熟子がいないこと、離婚により相手方が苛酷な状況に置かれないことなど、厳しい条件を満たす必要があります。
Q2. 調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
相手が正当な理由なく調停に出席しない場合、5万円以下の過料が科される可能性がありますが、実際に科されるケースは稀です。相手が2回連続で欠席した場合、調停は不成立として終了し、裁判に移行することになります。
Q3. 離婚調停にかかる費用の総額はどのくらいですか?
弁護士なしの場合は申立費用の約2,200円のみです。弁護士を付ける場合は着手金20〜30万円+成功報酬(慰謝料の10〜20%)で、総額50〜80万円程度が一般的です。ただし、調停で高額の慰謝料を獲得できれば、弁護士費用を差し引いても十分な利益が残ります。
Q4. 調停中に相手が浮気相手と会い続けている場合、慰謝料は増えますか?
調停中・裁判中であっても、離婚が成立するまでは法的に婚姻関係が継続しています。この期間中に不貞行為を続けていれば、「反省がない」「婚姻関係への配慮を欠いている」として慰謝料の増額要因になり得ます。調停中の不貞行為の証拠を追加で確保しておくことをおすすめします。
Q5. 離婚調停と慰謝料請求は同時に申し立てられますか?
離婚調停の中で慰謝料の金額についても話し合うことが可能です。離婚・慰謝料・財産分与・養育費をまとめて1つの調停で扱えるため、別々に申し立てる必要はありません。ただし、争点が多い場合は調停が長期化しやすくなります。調停に臨む前に、浮気の証拠や財産資料を整理しておくことで、スムーズな進行が期待できます。