不倫の慰謝料請求が認められても、「相手が払わない」という問題に直面するケースは少なくありません。
示談で合意したのに振り込みがない、裁判で勝訴したのに無視される、分割払いの途中で連絡が途絶える——こうした未払い問題は、慰謝料請求の「その後」に起こる深刻なトラブルです。
この記事では、慰謝料が払われない場合の段階別対処法と、そもそも未払いを防ぐための仕組みづくりを解説します。
この記事でわかること: 慰謝料が払われないときの5段階の回収手順、強制執行の具体的な流れと費用、分割払い交渉で損をしないテクニック、公正証書を作るメリットと作成方法、そして回収不能を防ぐ事前対策を解説します。
なお、そもそも慰謝料がいくらになるか把握できていない方は、まず慰謝料自動計算シミュレーターで概算額を確認しておくと、回収計画を立てやすくなります。
慰謝料が払われない3つのパターン
慰謝料の未払いには、大きく分けて3つのパターンがあります。パターンによって対処法が異なるため、まず自分がどの状況にいるのかを把握してください。
パターン①:示談後の未払い
示談書を交わして金額に合意したにもかかわらず、期日を過ぎても振り込みがないケースです。「お金がない」と先延ばしにされる場合と、完全に連絡が途絶える場合があります。
示談書が私文書(当事者同士で作成した書面)の場合、直接的な強制執行はできません。改めて裁判を起こし、判決を得てから強制執行に進む必要があるため、時間と費用がかかります。
パターン②:分割払いの途中で止まる
一括では払えないため分割払いに合意したものの、数回の支払い後に滞るケースです。転職・引っ越しなどで連絡先が変わり、追跡が困難になることもあります。
パターン③:裁判で勝訴したが払われない
裁判所が慰謝料の支払いを命じる判決を出しても、相手が自発的に支払わないケースです。判決には法的な強制力がありますが、裁判所が自動的に取り立ててくれるわけではありません。被害者側が自ら「強制執行」の手続きを申し立てる必要があります。
段階別:慰謝料を回収する5つのステップ
慰謝料の回収は、穏便な方法から段階的にエスカレートさせるのが基本です。いきなり強制執行に飛ぶのではなく、各段階で相手に支払いの機会を与えることが、結果的に早期回収につながります。
ステップ1:催促の連絡(電話・メール)
まずは支払い期日を過ぎていることを相手に伝えます。単なる忘れや振り込みミスの可能性もあるため、最初は穏やかなトーンで連絡してください。
この段階で重要なのは、やり取りを必ず記録に残すことです。電話の場合は通話内容をメモし、メールやLINEであれば送受信の記録を保存してください。「何月何日に催促したか」の記録は、後の法的手続きで役立ちます。
ステップ2:内容証明郵便の送付
催促しても支払いがない場合は、内容証明郵便を送付します。内容証明郵便は「いつ、誰が、誰に、どのような内容の書面を送ったか」を日本郵便が証明する制度です。
内容証明郵便には法的な強制力はありませんが、「このまま放置すれば法的手続きに移行する」という明確なメッセージになります。弁護士名義で送れば心理的プレッシャーはさらに大きくなり、この段階で支払いに応じるケースも少なくありません。
内容証明には、未払いの慰謝料額、支払い期限(通常2週間程度)、期限内に支払いがない場合は法的措置を講じる旨を記載します。費用は内容証明郵便自体が1,500〜2,000円程度、弁護士に作成を依頼する場合は3万〜5万円が目安です。内容証明郵便の具体的な書き方・書式ルール・送り方は不倫の慰謝料請求に使う内容証明郵便|書き方と送り方で詳しく解説しています。
ステップ3:民事調停の申し立て
内容証明でも解決しない場合は、簡易裁判所に民事調停を申し立てます。調停は裁判官と調停委員が間に入って話し合いを仲介する制度で、裁判よりも手続きが簡単で費用も低額です。
申立費用は請求額に応じた印紙代(慰謝料200万円の場合で約7,500円)と切手代程度です。弁護士に依頼する場合は別途費用がかかりますが、本人申し立ても可能です。
調停が成立すると「調停調書」が作成されます。調停調書には確定判決と同じ効力があるため、相手が調停で合意した内容を守らなければ、直接強制執行に移ることができます。
ただし、調停はあくまで話し合いの場であるため、相手が出席しない、あるいは合意に至らない場合は調停不成立となり、次の段階に進む必要があります。
ステップ4:訴訟の提起
示談書はあるが公正証書ではない場合、または調停が不成立の場合は、訴訟(裁判)を提起します。
訴訟にかかる費用は、印紙代(慰謝料200万円の場合で約15,000円)、切手代、弁護士費用(着手金20万〜30万円+成功報酬)が主な内訳です。判決までの期間は通常6ヶ月〜1年程度です。
勝訴判決が確定すれば、相手が支払わない場合に強制執行が可能になります。なお、すでに示談書がある場合は、未払い部分の請求に争点が絞られるため、比較的早期に判決が出る傾向があります。
ステップ5:強制執行
判決・調停調書・公正証書のいずれかがある場合に、裁判所を通じて相手の財産から強制的に回収する手続きです。
強制執行の対象となる財産は主に3つです。
給与の差し押さえ:相手の勤務先に対して、給与の一部(手取りの4分の1まで、手取り44万円超の場合は33万円を超える全額)を直接支払うよう命じます。相手が会社員であれば最も確実な回収方法です。ただし、勤務先に不倫の事実が知られる可能性があるため、相手にとって大きなプレッシャーになります。
預貯金の差し押さえ:相手の銀行口座を差し押さえます。口座にある預金が回収対象になりますが、差し押さえ時点の残高が対象のため、タイミングによっては回収額が少ないリスクがあります。
不動産・動産の差し押さえ:相手名義の不動産や高額な動産(車など)を差し押さえ、競売にかけて回収します。手続きが複雑で時間もかかるため、給与や預貯金の差し押さえが難しい場合の最終手段です。
強制執行の申立費用は4,000円程度(印紙代+切手代)ですが、弁護士に手続きを依頼する場合は10万〜20万円程度の費用がかかります。
強制執行の前提:相手の財産情報が必要
強制執行を行うには、差し押さえる財産を特定する必要があります。「どの銀行のどの支店に口座があるか」「どこの会社で働いているか」が分からなければ、差し押さえはできません。
2020年4月の民事執行法改正により、「第三者からの情報取得手続」が利用できるようになりました。裁判所を通じて、銀行に対して口座の有無を照会したり、市区町村に対して勤務先情報を照会したりすることが可能です。さらに、「財産開示手続」では、債務者本人に裁判所で財産を開示させることができ、正当な理由なく出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されます(改正前は30万円以下の過料のみ)。
この法改正により、慰謝料の回収力は大幅に強化されています。
公正証書を作るべき理由と作成方法
慰謝料の回収で最も重要な「事前対策」は、示談書を公正証書にしておくことです。
公正証書のメリット
通常の示談書(私文書)の場合、相手が支払わなければ改めて裁判を起こす必要があります。しかし、公正証書に**「強制執行認諾文言」**を入れておけば、裁判を経ずに直接強制執行が可能です。
つまり、相手が約束を破った場合に「裁判→判決→強制執行」という1〜2年のプロセスを、「強制執行の申し立て」だけに短縮できるのです。この時間と費用の差は、数十万円規模になります。
公正証書の作成手順
① 公証役場を予約する:最寄りの公証役場に連絡し、相談日を予約します。日本公証人連合会のサイトから最寄りの公証役場を検索できます。
② 必要書類を準備する:当事者双方の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)、印鑑証明書(発行3ヶ月以内)、示談書の原案が必要です。
③ 公証人に内容を確認してもらう:公証人が示談書の内容を法的に問題がないか確認し、公正証書として作成します。当事者双方(または代理人)が公証役場に出向く必要があります。
④ 強制執行認諾文言を必ず入れる:「債務者は、本公正証書に基づく金銭債務の履行を怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」という文言です。これがなければ公正証書にする意味が大幅に減ります。
公正証書の費用
公証人手数料は慰謝料の金額に応じて変動します。100万円以下で5,000円、100万超200万円以下で7,000円、200万超500万円以下で11,000円、500万超1,000万円以下で17,000円です。弁護士に作成を依頼する場合は別途5万〜10万円程度かかりますが、回収不能のリスクを考えれば十分に元が取れる投資です。
誓約書・示談書の基本的な書き方は浮気の誓約書・示談書の正しい書き方で解説しています。
分割払い交渉で損をしないための5つのポイント
相手に一括払いの資力がない場合、分割払いでの合意を検討することになります。しかし、分割払いには途中で支払いが止まるリスクがあるため、以下の5つのポイントを押さえてください。
ポイント①:分割回数は最小限にする
分割回数が増えるほど、途中で支払いが止まるリスクは高くなります。理想は3〜6回、長くても12回以内に収めてください。2〜3年にわたる長期分割は、相手の転職・引っ越し・再婚などの生活変化により、回収が困難になるリスクが高いです。
ポイント②:期限の利益喪失条項を入れる
「分割払いの1回でも遅延した場合は、残額を一括で支払う」という条項(期限の利益喪失条項)を必ず入れてください。これにより、1回でも滞納すれば残額全額の強制執行が可能になります。
ポイント③:遅延損害金を設定する
支払い遅延に対する遅延損害金(年率14.6%が上限の目安)を設定しておくと、相手の支払い意欲を維持する効果があります。なお、遅延損害金を受け取った場合は慰謝料本体と異なり課税対象になるため注意が必要です。慰謝料の税務上の扱いは浮気・不倫の慰謝料に税金はかかる?で解説しています。
ポイント④:連帯保証人をつける
相手の親族などに連帯保証人になってもらえれば、回収の確実性は大幅に向上します。相手本人が支払えなくなった場合でも、連帯保証人に請求できるためです。ただし、強制はできないため交渉力が問われます。
ポイント⑤:公正証書にする
分割払いの合意こそ、公正証書にすべきです。一括払いであれば支払い完了で関係は終わりますが、分割払いは長期にわたって相手との関係が続くため、不払いリスクが構造的に高くなります。公正証書にしておけば、滞納が発生した時点で即座に強制執行に移れます。
回収不能を防ぐ事前対策
慰謝料の回収で最も重要なのは、「請求する前」の準備です。以下の対策を講じておくことで、未払いリスクを大幅に減らせます。
対策①:相手の資産状況を事前に把握する
慰謝料の金額を決める前に、相手に支払い能力があるかを確認することが重要です。年収、勤務先、不動産の有無などの情報は、探偵の身元調査で把握できます。浮気調査と同時に相手の身元・勤務先調査を依頼しておくのが最も効率的です。
対策②:示談書は必ず公正証書にする
前述のとおり、公正証書にしておけば裁判を経ずに強制執行が可能です。数千円の手数料で数十万円の回収リスクを回避できるため、費用対効果は極めて高いです。
対策③:弁護士を通じて交渉する
個人で交渉すると、相手が支払い意思を示しながらも実際には払わない「引き延ばし」に遭いやすくなります。弁護士が介入していれば、法的手続きに移行する準備が整っていることが相手にも明確に伝わるため、支払い率が大幅に向上します。慰謝料の請求から回収までの全体的な流れは浮気の慰謝料相場と請求の流れで解説しています。
対策④:証拠は確実に確保しておく
慰謝料の回収は、そもそも「請求が認められる」ことが大前提です。証拠が不十分で請求自体が認められなければ、回収以前の問題です。裁判で確実に認められる証拠を取得するには、探偵の調査報告書が最も有効です。証拠の種類と証明力は浮気の証拠になるもの・ならないもの完全一覧で確認できます。信頼できる探偵社はおすすめ探偵社ランキングで比較できます。
相手が「払えない」と主張する場合の対処
「お金がないから払えない」は、慰謝料請求において最もよく聞く反論です。しかし、本当に払えないのか、払いたくないだけなのかを見極める必要があります。
本当に資力がない場合
相手が本当に無収入・無資産の場合は、現実的に回収が困難です。しかし、将来的に収入を得る可能性がある限り、請求権は維持しておくべきです。
具体的には、示談書(可能であれば公正証書)で債務を確認した上で、分割払いの条件を設定します。支払い能力が回復した時点で回収を開始できるよう、相手の連絡先や勤務先の変更があった場合に通知する義務を示談書に盛り込んでおくことも有効です。
資産隠しが疑われる場合
相手が財産を隠している可能性がある場合は、弁護士を通じて以下の調査が可能です。
弁護士会照会(23条照会):弁護士会を通じて、相手の預貯金口座の有無や残高を金融機関に照会できます。
財産開示手続:裁判所が相手に対して財産の開示を命じる制度です。2020年の法改正で、不出頭や虚偽陳述に対する罰則が強化されたため、実効性が大幅に向上しています。
第三者からの情報取得手続:裁判所を通じて、銀行・証券会社に預貯金情報を、市区町村・年金事務所に勤務先情報を照会できます。
なお、逆に慰謝料を請求された場合の対処法は不倫の慰謝料を請求されたら?減額交渉と正しい対処法で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 示談書があれば強制執行できますか?
通常の示談書(私文書)だけでは直接的な強制執行はできません。強制執行には、公正証書(強制執行認諾文言付き)、確定判決、調停調書のいずれかが必要です。私文書の示談書しかない場合は、改めて訴訟を起こして判決を得る必要があります。
Q. 強制執行にはどのくらいの費用がかかりますか?
申立費用自体は4,000円程度ですが、弁護士に依頼する場合は10万〜20万円程度の費用がかかります。ただし、給与の差し押さえは毎月継続的に回収できるため、費用対効果は高いケースが多いです。
Q. 相手が転職したら給与の差し押さえはどうなりますか?
差し押さえは転職先の勤務先に対して改めて申し立てる必要があります。転職先が分からない場合は、「第三者からの情報取得手続」で市区町村や年金事務所に勤務先情報を照会できます。
Q. 慰謝料の請求権に時効はありますか?
不貞行為と不倫相手を知った日から3年で時効が成立します。ただし、示談や判決で債務が確定した場合は、その時点から10年の時効になります。時効の詳細は慰謝料請求の時効と期限切れを防ぐ方法で解説しています。
Q. 不倫相手が自己破産した場合、慰謝料は回収できなくなりますか?
原則として、自己破産をしても不貞行為による慰謝料債務は免責されません(破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求�